部屋を抜け出して あの赤い花の美しさよ

少しだけ回復した魂を両手で大切に持ち歩く ひとり生きていくことがこんなにこわいなんて すぐに落としてしまいそうと思った瞬間落としてしまいそう
もうなんだっていい なにがよくてなにが悪いのかわかんない 何のため誰のため? 間違えれば間違えるほどカラスの羽をむしる手が動く その羽を纏ってかわいくなる 
あんなにあたたかい部屋 怖くなって動けなかった 閉じこめられて注がれた愛みたいな何か なあに? 爪を切りそろえて身体を洗って髪を結ってなにも持たずに、扉を開けると春だった 手も足も頭も自分でつかえることを確かめた 気丈に振る舞える もう大丈夫だと思ったのに。
ねえあの花の美しさ 見て わたしの心を溶かすもの こっちを見てって言うの 甘い匂い 忘れたの?忘れたの? 
話しかけないで。恐ろしくて泣いてしまう

さいころは、一人きり部屋の隅であそんでたんだ 膝をたたんでおとなしく白い紙を埋めつくすことだけが私の使命 ママの声も聞こえない 線をひけばかたちが生まれる、重ねれば影が生まれる 黄色と青色が混ざって緑になる そんな単純な行為に生まれてからずっと夢中 結界を張るためのお祈りなの どうか私を守って わたしの生んだ何万もの理想の女の子たちだけずっと側にいて

花みたいな形をして甘い匂いを放つ 本当に悪い奴ね
見ないふりを身につけた、私はずいぶん元気になった。それで、ずいぶん退屈な女になった