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どこまでも遠くまで続いてあるように見えた夕方の砂浜を果てに向かって歩いていくと、そのうちに段々と石が目立って、やがて岩がごろごろ転がるようになる。岩はどんどん大きくなっていって、自分よりも四倍あるような岩にぶつかった後のその先には進めなかった。ただ海だけが続いている。そのとき私の心の中には、黄色い小さい子猫が眠っていた。お気に入り水色のブランケットを抱いて小さく丸まって眠っていた。子猫は昔は黒色だった。白色の時も水色の時もあった。砂浜へ着いたときには起きていて、伸びをしたり、犬に怯え毛を逆立てたりしていた。私の歩き方はとても退屈なもので、冬の海は寂しくて、あまりに静かだったから子猫も眠ったようだった。ここへは初めてやってきた。

さっきまで見ていた夢の中では競馬場にいた。海では誰も優しくなくて、道を尋ねても誰も彼も無視をした。だから帰り道がわからなくて、気がついたら競馬場だった。200円を払って。道を通るための料金だと思ったら、競馬場だったんだ。お金はもう券売機に吸い込まれて、仕方なく、入場しますと受付のおばさんに伝えるとぬいぐるみをくれた。それは茶色い馬のぬいぐるみでタスキには「ウサギノクツシタ」と書かれていた。競馬場とわかったものの、小さなグラウンドとラーメン屋くらいの大きさ建物があるだけで、馬は一頭もいないようだった。その建物に入るとカウンターがあって、知り合いが何人か座っていて、カレーライスやらカツ丼やらを食べていたので本当にほとんどラーメン屋だった。知り合いの隣に座ってみて、馬券の買い方を尋ねると、それまではなかった気がするもう一つの建物を指差してあそこで買えると教えてくれた。グラウンドを挟んで少し離れていたので目を凝らすと、そちらの建物には券売機のような機械が何台か並んでいて、何人かの人がいるようだった。それでも馬はいないので不思議に思っていたら、音声放送が流れる。1着、2着、と馬の名前が読み上げられ、知り合いたちが落胆したり、歓喜して盛り上がっている。別の競馬場で馬は走っていた。なるほど、と思った。どこかで走っているらしい馬の姿は見られないけれど、手に握っていたウサギノクツシタがきっと一番かわいいと思った。帰り道はわからないままで、なんとなく寂しいと思うと、目が覚めた。

目が覚めて、お化粧をして着替えて自転車に乗ったら、私の考え事は、お腹がいっぱいになることって、重さなのか体積なのか、カロリーなのかということだった。昔どこかで400gを胃にいれると、満腹に感じると聞いたことがあるような気がする。それからずっと満腹とは重さによってもたらされると思っていたけど、違う気がしたのだ。マシュマロとか400gも食べれないと思うから。じゃあ体積かと言われたらそれも違うと思うから、カロリーも考えてみたけれどケーキひとつじゃお腹いっぱいになれない。でもバターだったら一切れでいい。複数の要素があったとしても一番割合を占める要素はなんなのだろう?なんでも、どうでもいいことなのだけれど。今日のバイト先はとても暇で一日中考えてみたけど、日が沈んで、外国人のお客さんに「マイフットイズブロークン」と言われた頃には、どうでも良くなった。それよりも私のウサギノクツシタはどこへ行ったんだろう。とっても可愛かったから夢の外までも連れて帰りたかった。

黄色い子猫はどこかへ行った。私の好きな人のお家まで遊びに行ったと私は思う。水色のブランケットがぐちゃぐちゃだったので畳んだ。まだあったかい気がする。子猫と同じ大きさくらいであろうミルクガラスのカフェオレボウルに、たっぷりとミルクを注いでブランケットの横に置いた。お腹を空かせて帰ってきても子猫はこれでお腹いっぱいになるだろう。きっと眠ってる好きな人の横でまた眠っているんだろうから、まだしばらくは帰ってこないと思うけど、いつ帰ってきてもいいように。ミルクを飲むところをよく見て、何が空腹を満たすのか観察しよう。心の中ではウサギノクツシタも存在できるので、リボンを巻いて、子猫にあげようと思った。