まいごセンター

もうしばらく触れていなかった箱をあければ、部屋が静かに冷たくなっていった。あんなに傷つけられて自分の人生をすり減らしたのに、何も生まれなかった。わたしほどはみ出てしまった人間を一人も知らない。 
夜中に一人で手紙を捨て続けていた。思い出というものが遠ざかって、ただの記憶になっていくのを感じながら大きな衣装ケースいっぱいの紙の束をゴミ袋にうつす。何もなくなっても透き通れない身体がつまんない。早く別の生き物になりたい。

遠くに子どもが見えて、彼女はショッピングモールの本屋さんに夢中だった。からから回る童話の棚のきらきらした絵をひとつひとつ眺めることで頭がいっぱいで、一緒にきた人のことなんてわすれてしまって。気づいたら一人で、迷子で、泣いていて、迷子センターから、迷子のお知らせです。クリーム色のワンピースを着た4歳の女の子が…。彼女は大人になっても、ずっとそんなふう。迎えに来てくれる人はいなくなっても自分がお姫様じゃないのを知っても。

コンクリートでできたお部屋のなかのタイルの貼られた机の上に置かれた木でできたお椀に金属でできたスプーン、シリアルを溶かすこの牛乳をつくった牛はどこにいるの?みんな、どこへいったの。