リカ

三つ編みをほどくと波打つ栗いろのきれいな髪に風が吹きつけて 海 私が錆びていくところ見てて

冷蔵庫に貼りつけられた小さな紙に青いペンで書かれてる
「大事なことを思い出すため」
これ書いたのだあれ
知らないけどママじゃない。ママのお気に入りのボールペンはユニ・ボール シグノ、黒の0.38mm
7歳だった。一人でピンク色のマンションのなか。インターホンが鳴る。そしたらいつもこう言ってたの。「いま誰もいません。」じゃあ誰の声?みんなが優しくてよかったね。一人でたまにピアノを弾いてみてた

一番古い記憶は…3歳くらい…ダムに行ったときのこと。足元の映像、コンクリートの階段を登りきって砂利道に変わるのを私の小さな足が踏みしめるところ…大きなダムだったし晴れていたしママと手を繋いでいたと思うけど、それはあとから見知ったこと。私が見たのは足元なんだ。階段 砂利 草 木の柵…それだけ。

カタカタ 指先がゆれてる もうすぐとまる
ずっとずっと一緒にいられないって怖いよ。はやく黒くて大きな悪魔の体内に取り込まれたい だれもみんな先にいなくなる気がする 耐えられない おじいちゃん死んだとき形見わけでもらってたベルトも壊れちゃった やんなっちゃうなもう… 怖いよーかなしい退屈さみしいこっちへ来て迎えに来て 夜のバカ 

手押し車を芝生で押したの覚えてる? 木製のアヒルの親子が上下しながら笑ってるの 全部が笑っていて、太陽も花も全部が笑って、みんなで赤ちゃんをよろこばせようとしてたの… そういうのが大好きなの。そうそう 世界って何もわたしと関係ないかもしれないよ わたしはいつまでも美しいもの見つめるだけ 見つめるだけ 見つめることしかできない無力で情けない子ども 転ぶ、迷子になる、うっかりベッドから落ちていく。

日本海の荒れ狂った波やひどい風 僕はそれに当たるのが何より 何よりも好き ずーっとずっとたぶん変わらない風 それだけが正しいと思うもの 心をこわす ゆるす それからロックンロール わたしの光り輝く希望の星。まっすぐに突き刺さる いつもダメな私のこと突き刺しては殺してくれる こわしてゆるして守ってくれる こわす ゆるす まもる 大好き。いつもいて。祈ってる
あと太陽もね 

雨降ってそんな顔しないで。むかつく
でもわかってるよ 大事なものが溶けてしまうよね
生きている間もう間違えたくなくてだから私いつも緊張しているよ 気を張りつめて爪も鋭利に整えて…つよがりたいの
忘れてはいけないことたくさんあるのに忘れてしまう 私じゃあなたを守れないという真実
あのさ、考えてみるけれどやっぱりこれからどうしたらいいかちっともわかんない
だから例えば、リカって名前になりたかった